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アメリカでは、個人の金融資産に占める株式の割合が高いうえ、発行企業が、機動的に株式分割を行って投資単位を引き下げ、少額での株式投資が可能になっています。
もちろん、個人が投資する株式の中心は、ニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場している実績のある企業が発行するものです。
しかし、実績がなく、リスクの高いベンチャー企業の株式であっても、ごく少額の投資であれば、エンジェル投資家のような特別な人でなくとも手掛けることが可能です。
リスクの高い投資対象を十分に理解したうえで受け入れる多数の投資家層が確立しているアメリカだからこそ、インターネットーファイナンスのような大胆で新しい試みが成立し得たという面は否定できません。
世界初のインターネットーファイナンスを成功させたスプリングーストリート社は、インターネットを通じた株式の流通市場の創設も試みました。
実は、スプリングーストリート社のインターネットーファイナンスが大きな話題を呼んだのは、インターネット上で株式を発行したということの目新しさばかりでなく、その後、発行した株式を流通させる仕組みを作ろうとしてSECの介入を招いた点にあったのです。
九六年三月一日、スプリングーストリート社のホームページ上に「ウィットトレード」と名付けられたコーナーが開設されました。
多数の一般投資家向けに、発行された同社の株式を売買するための場を設けるというのです。
ウィットトレードの仕組みはごく単純なものでした。
それは、インターネット上に自分の意見を掲載したり、他人の意見に関するコメントを発表したり、相手に電子メールを送ったりする機能を備えた電子掲示板を応用したものです。
ウィットトレードには、「株式売却希望」と「株式購入希望」の二つのエリアが設けられ、投資家は、そこに取引を希望する値段と数量、電子メールアドレスや電話番号といった連絡先などの情報を人力します。
掲示板上の情報をみた他の投資家から連絡が来れば、電子メールのやり取りなどで売買交渉をすることになります。
電子掲示板上の書き込みがきっかけとなって、電子メールで意見の交換をするのと同じです。
交渉が成立し、価格や数量が折り合えば、売り手、買い手双方が、スプリングーストリート社の用意した株式売買契約書のフォームをプリントアウトし、必要事項を記入して署名します。
あとは、売り手は契約書と株券、買い手は契約書と代金相当の小切手をスプリングーストリート社に宛てて郵送するだけです。
会社側では、契約書の内容と株券や小切手が一致するかどうかを確認し、株券を買い手へ、小切手を売り手へそれぞれ送ります。
こうして証券会社や証券取引所といった仕組みを介することなく、一般の投資家の間で株式の売買が行われることになったのです。
このウィットトレードは、九六年三月十四日に稼働し、実際に四件の売買が成立したそうです。
ウィットトレードは、インターネットの双方向性を活かして、不特定多数の投資家間で株式を売買できるようにしたという点で画期的な試みでした。
仕組みそのものは単純ですが、大げさにいえば、証券会社や証券取引所が担ってきた株式売買の仲介機能をインターネットで置き換えてしまったとみることさえできます。
しかし、この仕組みは、行政当局による介入を受けることになってしまいました。
証券市場を監督するSECが、投資家間の株式の売買に発行会社であるスプリングーストリート社自身が関与するという点が、証券法規制に触れる可能性もあるとして、ウィットトレードの運用を中止するよう申し入れたのです。
世界初の株式取引電子掲示板は、スタートしてからわずか六日間で閉鎖されることになってしまいました。
九六年三月二十二日、SECは、企業財務局の法務担当次長と市場規制局次長の連名による書簡という形で、ウィットトレードに関する公式の見解を明らかにしました。
この書簡の中でSECは、株式の発行者であるスプリングーストリート社自身が投資家間の株券や小切手の受渡しに関与することは好ましくなく、銀行を介する仕組みに改める必要があると指摘しました。
また、投資家が電子掲示板を通じた株式の売買に伴うリスクについて理解できるよう、スプリングーストリート社の株式が証券取引所やナスダック市場では取引されていないという事実を説明するとともに、最初に購人した時の価格や自分の希望する価格で株式を売却できない可能性もあるという警告文を掲載する必要があるとも指摘しました。
売却希望、購入希望の二つの掲示板に同時に情報を掲載すると、証券ディーラーとみなされる可能性があることを説明しなければならない、といった指摘もなされました。
SECは、これら一連の指摘に従ってシステムが改善されない限り、ウィットトレードの運営には証券法違反の疑いがあるとし、スプリングーストリート社の試みは失敗に終わりました。
もっとも、このSECの書簡によって、指摘されたような点を考えたシステムであれば、発行会社がインターネット上で株式を取引する電子掲示板を開設すること自体は構わないと公式に認められたのも事実です。
証券取引の世界におけるインターネット活用の可能性が、また一つ広がったということができるでしょう。
実際、九六年六月には、株式直接募集の項でも触れたRGTC社が、投資家がインターネット上で同社の株式を売買するための電子掲示板を開設しました。
次いで同八月には、パーフェクトーデータ社も同じような仕組みを開設しました。
いずれも、SECがウィットトレードに関して指摘した点を考慮して、様々な警告文を掲載したほか、株券や小切手の受け渡しは、名義書換代理人を務める銀行を通じて行うという仕組みをとっていました。
RGTC社もパーフェクトーデータ社も、株式をナスダック市場で公開している公開企業でしたが、知名度の低い中堅企業ということもあって取引は活発ではありませんでした。
ナスダック市場では、マーケットーメーカーと呼ばれる証券会社が、売りと買いの気配値を常に提示して投資家からの売買注文を受け付けるという方法で取引が行われています。
一般の取引所で採用されている、売り注文と買い注文が一定のルールに従ってマッチングされるオークション方式とは異なり、マーケットーメーカー制度のもとでは、常に最低限の流動性が維持されます。
九八年十二月以降、わが国の株式店頭市場でも、このマーケットーメーカー制度が本格的に導入されつつあります。
しかし、RGTC社やパーフェクトーデータ社のような会社の株式の場合、マーケットーメーカーが提示する売りと買いの気配値の間には大きな開き(スプレッド)があります。
こうした流動性の低い銘柄の場合、マーケットーメーカーが、投資家の売り注文に対して買い向かったとしても、すぐに別の投資家が買い手として現れるとは限りません。
買い手が現れるまで、マーケットーメーカーは、株式を在庫として保有しなければならないわけですが、その間に株価が大きく変動する可能性もあります。
極端な場合には、その間に会社が倒産してしまい、株式が価値のないただの紙切れになってしまうというリスクも否定はできません。
証券会社は、こうしたリスクに見合った利益を獲得するために、気配値のスプレッドを最初から広げておくのです。
もっとも、投資家からみれば、マーケットーメーカーを介さずに売り手と買い手が直接交渉して折り合うことができれば、お互いにとってより有利な価格で売買することが可能になるはずです。

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